業務効率化・DX

中小企業が最初に自動化する業務は、提出物ではなく台帳で決まります

「事務作業を減らしたいのですが、何から手をつければよいでしょうか」というご相談をいただきます。

このとき、候補として挙がってくるのは、たいていいま手が止まっている作業です。 年末調整の時期に事務所が止まる、決算前に伝票の束と向き合う。 思い当たるものから挙げるのは自然ですし、実際に負担も大きい。

ただ、その挙げ方だと候補が繁忙期に寄ります。 そして繁忙期の作業は、年に1回しか回ってこないものが多いという性質があります。

結論

自動化の候補は、作業の側から探すと繁忙期に偏ります。提出物の側から逆にたどってください。 手順は3つです。

  1. 1年間の提出物を、期限順に並べる
  2. それぞれの横に「どの帳簿の数字から作っているか」を書く
  3. 2つ以上の提出物から名前を挙げられた帳簿が、最初に手をつける場所

中小企業でこれをやると、行き着く先はほぼ決まっています。賃金台帳と固定資産台帳です。 年末調整でも給与計算でもありません。提出物ではなく、その手前にある台帳のほうが候補になります。

理由は単純で、提出物は年に1回でも、台帳はそこから何度も切り出されるからです。 切り出し方が提出物ごとに違うので、手で作ると提出物の数だけ別のExcelができます。 自動化の効き目が出るのは、この「切り直し」を減らしたときです。

手順① 1年間の提出物を期限順に並べる

まず、期限が法令で決まっているものを並べます。期限そのものは会社ごとの事情では動きません。 ただし、どれが自社に回ってくるかは会社ごとに違います。次の表は、給与を支払っている法人に 回ってくるものを並べたものですが、労働者を使っていなければ労働保険の2行は無く (労働者を使用する事業が労災保険の適用事業で、その事業主に保険関係が成立します。 労災保険法3条1項、労働保険徴収法3条)、償却資産を持っていなければ償却資産の申告も無く、 免税事業者なら消費税の確定申告もありません(消費税法45条1項は、申告義務を負う者から 「第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者」を除いています)。 自社に回ってこない行は、先に消してください。

期限何を根拠
毎月10日(前月徴収分)源泉所得税の納付所得税法183条1項
7月10日/翌年1月20日源泉所得税の納付(納期の特例の承認を受けた場合)所得税法216条
その保険年度の6月1日から40日以内概算保険料の納付労働保険徴収法15条1項
次の保険年度の6月1日から40日以内確定保険料の申告労働保険徴収法19条1項
7月10日算定基礎届(7月1日現に使用する被保険者の報酬月額の届出)健康保険法施行規則25条1項、厚生年金保険法施行規則18条1項
1月31日償却資産の申告(1月1日現在の償却資産について)地方税法383条
翌年1月31日源泉徴収票の交付・提出(中途退職者は退職の日以後1月以内)所得税法226条1項
1月31日給与支払報告書の提出地方税法317条の6第1項
事業年度終了の日の翌日から2か月以内法人税の確定申告法人税法74条1項
課税期間の末日の翌日から2か月以内消費税の確定申告消費税法45条1項

このうち源泉徴収票の税務署への提出は、令和8年分から、市区町村への給与支払報告書の提出で 代えられるようになります(後述)。カレンダーに載せるのは、条文上の期限そのものではなく、 「その期限までに自分が何をするか」なので、ここは並べた後に一度見直してください。

条文の書き方が「日付」ではなく「期間」になっているものがあります。ここは計算しておきます。

  • 労働保険の年度更新 労働保険徴収法19条1項は確定保険料の申告書について 「次の保険年度の六月一日から四十日以内」と書いています。「六月一日から」は午前零時から 始まるので初日を算入します(民法140条ただし書)。6月1日を1日目として40日目は 7月10日です。6月は30日までしかないので、うるう年かどうかに関係なく毎年7月10日になります。 概算保険料の納付(同法15条1項)も「その保険年度の六月一日から四十日以内」なので、 前の保険年度の確定と、その保険年度の概算が同じ7月10日に並びます。
  • 法人税・消費税 「事業年度終了の日の翌日から二月以内」なので、起算日は決算日の翌日です (期間が午前零時から始まるので初日を算入します。国税通則法10条1項1号ただし書)。 月末決算なら起算日は必ず月の初日になり、同項2号により暦に従って2か月を数えます。 3月31日決算なら4月・5月の2か月で5月31日、12月31日決算なら1月・2月の2か月で 2月の末日(うるう年は2月29日)です。月の途中に決算日を置いている場合だけ、 起算日に応当する日の前日が期限になります(同項3号)。

日付はスクリプトで計算しました。手で数えると、40日目を41日目と数える取り違えが起きます。

提出物は、思っているより固まっている

この表で気づいてほしいのは、期限が1月31日と7月10日に集中していることです。 源泉徴収票・給与支払報告書・償却資産の申告は、条文が別なのに期限が同じ日に来ます。 算定基礎届と労働保険の年度更新も同じ日に来ます。

繁忙期を作っているのは作業の量ではなく、期限の重なりです。 この重なりは法令で決まっているので、動かせません。動かせるのは準備の側だけです。

手順② もとになる帳簿を書く

次に、それぞれの提出物の横に「どの帳簿の数字から作っているか」を書きます。 給与に関するものは、ほぼ全部が賃金台帳にたどり着きます。

賃金台帳は、思いつきで作る表ではありません。労働基準法108条が調製を義務づけており、 記載事項は労働基準法施行規則54条1項が1号から8号まで決めています。

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。 (労働基準法108条)

使用者は、法第百八条の規定によつて、次に掲げる事項を労働者各人別に賃金台帳に記入しなければならない。 一 氏名/二 性別/三 賃金計算期間/四 労働日数/五 労働時間数/六 (略)その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数/七 基本給、手当その他賃金の種類毎にその額/八 法第二十四条第一項の規定によつて賃金の一部を控除した場合には、その額 (労働基準法施行規則54条1項。「/」は引用者が号の区切りとして入れたもの)

つまり、列の設計は自分で考えなくてよいということです。8つの号が列の骨格になります。

同じ台帳から、切り方の違う数字が出る

ここがこの記事の中心です。賃金台帳から数字を取り出す提出物は複数ありますが、 取り出す期間も、対象になる人の範囲も、それぞれ違います。

提出物取り出す数字対象になる人
源泉徴収票(本人へ交付)その年において支払の確定した給与等給与等の支払を受ける者の各人別(全員)
源泉徴収票(税務署へ提出)同上令和7年分までは区分ごとに決まった金額を超える者だけ。令和8年分からは給与支払報告書と同じ範囲(後述)
給与支払報告書(市町村へ提出)前年中の給与所得の金額その給与の支払を受けている者(1月1日現在において給与の支払をする者が提出する)
算定基礎届7月1日前3月間に受けた報酬の総額を、その期間の月数で除して得た額7月1日現に使用する被保険者
労働保険の確定保険料その保険年度に使用した労働者に係る賃金総額その保険年度に使用したすべての労働者

表の各行を、左から右へ続けて読んでみてください。 「給与支払報告書は、前年中の給与所得の金額を、その給与の支払を受けている者について出す」。 「算定基礎届は、7月1日前3月間に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を、 7月1日現に使用する被保険者について出す」。 同じ会社の同じ1年分の給与から出てくるのに、どれ一つとして同じ切り方をしていません。

算定基礎届のほうは、括弧書きも落とせません。

保険者等は、被保険者が毎年七月一日現に使用される事業所において同日前三月間(その事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日(厚生労働省令で定める者にあっては、十一日。……)未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する。 (健康保険法41条1項)

報酬支払の基礎となった日数が17日未満の月は、除いて平均します (括弧書きの「厚生労働省令で定める者」は、週の所定労働時間または月の所定労働日数が 同じ事業所の通常の労働者の4分の3未満である短時間労働者で、この人たちは11日で見ます。 健康保険法施行規則24条の2)。さらに、対象になるのは 「その事業所で継続して使用された期間」に限られます。 単純に4月・5月・6月の3か月で割る式を組むと、欠勤の多かった月がある人でずれます。 さらに同条3項は、6月1日から7月1日までの間に資格を取得した者などについて その年は定時決定を行わないとしており、健康保険法施行規則25条1項も その者を届出の対象から明文で除いています。人数の分母すら提出物ごとに違うということです。

源泉徴収票の提出範囲は、いま切り替わる途中です

源泉徴収票の税務署への提出範囲は、令和8年分から変わります。 この記事を書いている時点ではまだ切り替わっていないので、両方を書いておきます。

令和7年分までは、所得税法施行規則93条2項が1号から4号までの区分ごとに金額を定めていて、 次の金額以下なら提出を要しません。

区分この金額以下なら提出を要しない根拠
年末調整を受けた給与等(弁護士・税理士等に支払うものと、次の行の役員分を除く)500万円所得税法施行規則93条2項1号
年末調整を受けた給与等で法人が役員(相談役・顧問などを含む)に支払うもの150万円同項2号
上の2つ以外の給与等で、扶養控除等申告書を提出した者(上の役員を除く)に対し、その提出の際に経由した支払者が支払うもの250万円同項3号
上の3つ以外の給与等50万円同項4号

1号の括弧書きを落とさないでください。500万円で切れるのは、弁護士・司法書士・公認会計士・ 税理士・社会保険労務士など(所得税法204条1項2号に規定する者)に支払う給与等と、役員に支払うものを 除いた残りです。年末調整をした給与等でも、顧問税理士に給与として支払っているような場合は 500万円ではなく3号の250万円(その人が役員なら2号の150万円)で判定します。

この金額の区分は、令和8年分でなくなります。 令和5年度税制改正で、市区町村へ給与支払報告書を出せば税務署へ源泉徴収票を出したものとみなす 仕組みが入り、それに合わせて提出範囲も給与支払報告書と同じに揃えられました。 適用されるのは令和9年1月1日以後に提出すべきもの、つまり令和8年分以後です。

令和9年1月1日以後、市区町村に「給与支払報告書」又は「公的年金等支払報告書」を提出した場合には、税務署長に「給与所得の源泉徴収票」又は「公的年金等の源泉徴収票」を提出したものとみなされます。そのため、税務署提出用の「給与所得の源泉徴収票」や「公的年金等の源泉徴収票」を作成し、提出する必要がなくなります。 (国税庁「源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ」)

改正後の提出範囲は、給与支払報告書と同じ次の1行だけになります。

年の中途で退職した者に対するその年中に支払った給与等の支払金額が30万円以下である場合を除くすべての給与等 (国税庁「源泉徴収票(給与所得・公的年金等)のみなし提出の特例に関するQ&A」(令和8年4月)問7の表の【改正後】欄。給与支払報告書の欄は改正前・改正後とも同じ内容)

本人への交付は、改正の前後を通じて全員分のままです。

改正前と同様、受給者本人への源泉徴収票の交付は必要です。 (同Q&A 問3)

つまり、令和8年分(2027年1月に出すもの)からは、「税務署に出す分だけ抜き出す」という作業そのものが無くなります。 合計表も、給与所得の源泉徴収票だけなら要らなくなります(同Q&A 問8。ほかの法定調書を出すときは引き続き必要です)。

中途退職者の扱いも揃っていません。源泉徴収票は所得税法226条1項の括弧書きにより 退職の日以後1月以内に提出・交付します。一方、給与支払報告書は地方税法317条の6第3項が その年の翌年1月31日までとしたうえで、ただし書で 「その給与の支払を受けなくなつた日の属する年に当該給与の支払をする者から支払を受けた給与の金額の総額が 三十万円以下である者については、この限りでない」と定めています。 時期も除外の基準も別です。 ただし税務署への提出については、国税庁が運用上の取扱いとして、翌年1月末までに ほかの源泉徴収票とまとめて提出してよいとしています(同Q&A 問2)。 本人への交付のほうは、退職の日以後1月以内のままです。

手で作ると、ここで「税務署に出す分だけ抜き出したExcel」ができます。 翌年になると、それがどういう基準で抜き出したものだったか分からなくなります。 しかも、いま見たとおり抜き出しの基準そのものが法律で変わります。 抜き出した後のファイルを残すのではなく、抜き出す前の台帳を残して、抜き出しのほうを毎回やり直せるようにする。 自動化で効くのはここです。

固定資産台帳にも矢印が集まる

給与以外では、固定資産台帳に集まります。減価償却費の計算、法人税の申告書に添付する明細、 そして償却資産の申告(地方税法383条)が、同じ台帳から出ます。

ただし、償却資産の申告は毎年1月1日現在の状態で出すので、 期中に取得・除却したものが、決算の締めより先に確定していないと間に合いません。 ここは自動化以前に、台帳の更新のタイミングの問題です。

修繕費として処理したか資本的支出として処理したかで台帳に載るかどうかが変わるため、 その判定そのものは自動化の対象になりません。判定の考え方は 修繕費と資本的支出の分かれ目に書いています。

手順③ 集まった台帳を、機械が読める形にする

矢印が集まる台帳が分かったら、最初にやるのは自動化ではありません。 その台帳を、機械が読める形にすることです。条件は4つです。

条件何をするか
1行1件1人1行(賃金計算期間ごとに1行)。人ごとにシートを分けない
1セル1値「基本給200,000 手当30,000」のような1セル2値をやめる
結合セルを使わない見た目のための結合は、読み取りのときに空欄になる
コードの列を持つ氏名だけで突き合わせない。同姓同名と改姓で必ず壊れる

この4つを満たしていない台帳は、読み取る前に必ず整形の手間がかかります。 整形を毎回手でやるなら、自動化した意味がほとんど残りません。 逆に、満たしていれば道具は後から選べます。

全員の全部の列が埋まるわけではない

台帳の形を決めるときに見落としやすいのが、記入を要しない場合があることです。 労働基準法施行規則54条は、5項で次のように定めています。

法第四十一条各号のいずれかに該当する労働者及び法第四十一条の二第一項の規定により労働させる労働者については第一項第五号及び第六号は、これを記入することを要しない。 (労働基準法施行規則54条5項)

5号は労働時間数、6号は時間外・休日・深夜の労働時間数です。 管理監督者などについては、この2つの列が空欄になるのが正しい状態だということになります。

同条4項も同じ形で、日々雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用される者を除く)については、 3号の賃金計算期間を記入することを要しません。

自動化するときに「空欄があったらエラー」という作りにすると、ここで毎回止まります。 空欄が正しい場合があることを、最初に決めておく必要があります。

保存の年数も、台帳の設計に入れる

労働基準法109条は、賃金台帳を含む記録の保存を5年間と定めています。 ただし、同法附則143条1項が当分の間の読替えを置いています。

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。 (労働基準法109条)

第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。 (労働基準法附則143条1項)

つまり、条文は5年だが、当分の間は3年という状態です。 「当分の間」がいつまでかは条文に書かれていないので、5年で設計しておくほうが安全です。 自動化の設計で、保存だけを後回しにしないでください。

年間回数を取り違えない

候補が挙がったら、次は並べ替えです。並べ替えの式は Excelの手作業を減らすに書いたとおり、 年間回数と、自動化しても残る確認時間で決まります。

その年間回数のところで、中小企業に特有の取り違えが1つあります。 源泉所得税の納付が年12回なのか年2回なのかです。

原則は所得税法183条1項で、徴収の日の属する月の翌月10日までに納付します。年12回です。 一方、所得税法216条の承認を受けていれば、1月から6月までの分は7月10日、 7月から12月までの分は翌年1月20日の年2回で済みます。6倍の差があります。

この承認の要件は、条文の括弧書きの中にあります。

当該支払をする者の事務所、事業所その他これらに準ずるものでその支払事務を取り扱うもの(給与等の支払を受ける者が常時十人未満であるものに限る。以下この章において「事務所等」という。)につき、当該事務所等の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合には (所得税法216条)

読み違えやすいのは、「常時10人未満」が掛かっている相手です。 会社全体の人数ではなく、その支払事務を取り扱う事務所等の単位で見ます。 支店ごとに給与の支払事務をしている会社では、事務所等ごとに判定します。

そして、承認を受けていなければ特例は使えません。所得税法217条1項が申請書の提出を求めており、 同条2項は、その事務所等において給与等の支払を受ける者が常時10人未満であると認められないときなどに 申請を却下できると定めています。人数が要件を満たしていれば自動的に年2回になる、という制度ではありません。

申請書を出した月の翌月末日までに承認も却下もなかったときは、その日に承認があったものと みなされます(同条5項)。特例の対象になるのは承認を受けた日の属する月からその期間の 最終月までに支払った給与等です(所得税法216条の括弧書き)。 却下されずにみなし承認となる通常の場合、申請書を出した月に支払う給与等は、まだ対象になりません。 国税庁も、却下の通知がない場合について 「この納期の特例申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされ、申請書を提出した月の翌月に 源泉徴収する所得税および復興特別所得税から、納期の特例の適用の対象になります」としています。 国税庁が挙げている例では、2月中に申請書を出した場合、 2月支給分は3月10日までに納付し、3月から6月の支給分が7月10日にまとまります。

期限の繰下げは、提出先ごとに根拠が違う

カレンダーを機械で作るときに、最後に引っかかるのがここです。 期限が土日祝に当たったときの扱いは、まとめて同じにはできません。

提出先根拠条文の書きぶり
国税(税務署)国税通則法10条2項「国税に関する法律に定める申告、申請、請求、届出その他書類の提出、通知、納付又は徴収に関する期限……が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他一般の休日又は政令で定める日に当たるときは、これらの日の翌日をもつてその期限とみなす」
地方税(市町村)地方税法20条の5第2項「この法律又はこれに基づく条例の規定により定められている期限……が民法第百四十二条に規定する休日その他政令で定める日に該当するときは……これらの日の翌日をその期限とみなす」
国の行政庁行政機関の休日に関する法律2条「国の行政庁……に対する申請、届出その他の行為の期限で法律又は法律に基づく命令で規定する期間……をもつて定めるものが行政機関の休日に当たるときは、行政機関の休日の翌日をもつてその期限とみなす。ただし、法律又は法律に基づく命令に別段の定めがある場合は、この限りでない」

3つとも、自分が適用される範囲を条文の中で限定しています。 たとえば健康保険の算定基礎届は、健康保険法施行規則25条1項が提出先を 「機構又は健康保険組合」としており、上の3つの条文が名指ししている相手とは違います。

念のため書いておくと、これは「算定基礎届には繰下げが無い」という意味ではありません。 上の3つの条文では説明がつかない、という意味です。 提出先ごとに根拠を確かめてから仕組みに組み込んでください。

実際に効いてくる場面があります。令和9年(2027年)で見ると、 1月31日は日曜日、7月10日は土曜日です。 源泉徴収票・給与支払報告書・償却資産の申告が同じ日曜日に、 算定基礎届と労働保険の年度更新が同じ土曜日に重なります。曜日はスクリプトで確認しました。

自動でカレンダーを出す仕組みを作るなら、繰下げの根拠を提出先ごとに持たせるか、 繰下げを組み込まずに元の期限で出しておくかのどちらかにしてください。 一律に「土日なら翌営業日」と置くのがいちばん危険です。

自治体や学校法人でも、手順は同じです

ここまで中小企業を前提に書きましたが、手順そのものは変わりません。 提出物を期限順に並べ、もとになる台帳を書き、矢印が集まったところから手をつける。

給与支払報告書(地方税法317条の6第1項)は「給与の支払をする際所得税法第百八十三条の規定により 所得税を徴収する義務があるもの」が対象なので、自治体も学校法人も同じように提出します。 賃金台帳の調製義務も、労働基準法が適用される範囲では同じです (地方公務員については労働基準法の適用関係に特則があるので、そこは別に確認してください)。

違うのは、矢印が集まる先に公営企業会計や学校法人会計の固有の台帳が加わることです。 決算統計や経営比較分析表は、その典型です。 どこまでが計算でどこからが判断かは、 決算統計と経営比較分析表に書きました。

候補から外してよいもの

最後に、挙がっても外してよいものを書いておきます。

  • 年1回しか回らず、かつ制度が毎年変わるもの。年末調整の税額計算そのものが典型です。 控除の仕組みが改正されるたびに作り直しになるので、ここは市販のソフトに任せるほうが安くつきます
  • 判定そのもの。修繕費か資本的支出か、賞与が損金になるかといった判断は、 入力を整えることはできても、結論を出す部分は自動化の対象になりません
  • 年に1回、しかも来年やるかどうか分からないもの。補助金の申請書類などです

外すものを先に決めておくと、残ったものが候補になります。 そのうえで並べ替えると、だいたい毎月回ってくる、判断の入らない、台帳から機械的に出せるものが 上に来ます。派手さはありませんが、最初の1本はそこから選ぶのが確実です。

まとめ

  • 自動化の候補は、作業の側からではなく提出物の側から逆にたどると見つかります
  • 1年間の提出物を期限順に並べ、それぞれの横にもとになる台帳を書きます。 2つ以上から名前を挙げられた台帳が、最初に手をつける場所です
  • 中小企業では、賃金台帳と固定資産台帳にほぼ必ず矢印が集まります
  • 同じ賃金台帳から出る数字でも、期間も対象者の範囲も提出物ごとに違います。 しかもその範囲は動きます。源泉徴収票の税務署への提出は、令和7年分までは 年末調整を受けた給与等で500万円以下なら不要で、この500万円からは 弁護士・税理士等に支払うものと役員分が除かれています(所得税法施行規則93条2項1号)。 令和8年分からは提出範囲が給与支払報告書と同じに揃い、市区町村に給与支払報告書を出せば 税務署へ提出したものとみなされます。本人への交付は前後を通じて全員分です
  • 台帳を機械が読める形にするのが先です。1行1件・1セル1値・結合セルなし・コードの列。 管理監督者などについて労働時間の列が空欄になるのは正しい状態です (労働基準法施行規則54条5項)
  • 年間回数を取り違えないでください。源泉所得税の納付は年12回か年2回かで6倍違い、 年2回にするには所得税法216条の承認が要ります。「常時10人未満」は会社全体ではなく 事務所等の単位です
  • 期限が休日に当たったときの繰下げは、提出先ごとに根拠の条文が違います。 一律に「翌営業日」と置かないでください

よくある質問

自動化の候補は、結局どうやって挙げればよいですか。

1年間の提出物を期限順に並べ、それぞれの横に「どの帳簿の数字から作っているか」を書きます。その帳簿の名前を数えて、2つ以上の提出物から名前を挙げられた帳簿が最初の候補です。作業の側から探すのではなく、提出物の側から逆にたどるのがこの手順の要点です。中小企業でこれをやると、多くの場合は賃金台帳と固定資産台帳の2つに集まります。

なぜ「いちばん時間がかかっている作業」から選んではいけないのですか。

選んではいけないわけではありませんが、その順で並べると年1回しか回ってこない作業が上に来ます。年間の削減時間は「年間回数 × 1回あたりの削減時間」で決まるので、1回が長くても年1回なら効きません。並べ替えの考え方は別の記事に書いています。この記事はその手前の、候補をどうやって挙げるかの話です。

源泉徴収票と給与支払報告書は同じ内容なのに、なぜ別に作るのですか。

提出先も、提出する範囲も違うからです。給与支払報告書は、1月1日現在において給与の支払をする者が、その給与の支払を受けている者について、前年中の給与所得の金額を1月31日までに市町村へ提出します(地方税法317条の6第1項)。源泉徴収票は全員分を作成して本人に交付しますが、税務署へ提出する範囲はこれとは別で、令和7年分までは年末調整を受けた給与等なら支払金額500万円以下の人は提出を要しませんでした。この500万円からは弁護士・税理士等に支払うもの(250万円で判定)と役員に支払うもの(150万円で判定)が除かれています(所得税法施行規則93条2項1号から3号まで)。ただし令和9年1月1日以後に提出すべきもの、つまり令和8年分以後の源泉徴収票からは、提出範囲が給与支払報告書と同じに揃えられ、市区町村に給与支払報告書を提出すれば税務署へ源泉徴収票を提出したものとみなされます。本人への交付は改正後も全員分のままです。中途退職者についても、源泉徴収票は退職の日以後1月以内(税務署への提出は運用上、翌年1月末までにまとめてよいとされています)、給与支払報告書は翌年1月31日まで(その年の支払総額が30万円以下なら提出不要)と、時期も基準も別です。同じ賃金台帳から出てくる数字ですが、切り出し方が違います。

期限が土日に当たったら、どれも翌営業日にずれると考えてよいですか。

いいえ。根拠になる条文が提出先ごとに違うので、まとめて同じ扱いにはできません。国税は国税通則法10条2項、地方税は地方税法20条の5第2項、国の行政庁への申請・届出は行政機関の休日に関する法律2条(ただし別段の定めがある場合を除く)にそれぞれ規定があります。一方、健康保険の算定基礎届の提出先は条文上「機構又は健康保険組合」であり(健康保険法施行規則25条1項)、いま挙げた3つの条文がそのまま当てはまる相手ではありません。カレンダーを機械で作るなら、繰下げの根拠は提出先ごとに確かめてください。

出典

お問い合わせ・ご相談

学校法人の会計監査、公営企業の会計指導、税務申告のことなら鳥生紘平公認会計士事務所にお任せください。

初回相談は無料です

受付時間: 平日 9:00〜18:00