下水道事業への地方公営企業法の適用、いわゆる法適化は、全国で見れば終わりかけています。 令和7年4月1日時点で、下水道事業3,503のうち3,471が適用済みです。
ただ、終わっていない側にとっては、この1〜2年で話が変わりました。 「まだやっていない」が、これまでは進捗の遅れという形でしか表に出てこなかったのに対し、 いまは財政措置を受けられないという形で表に出ます。
ここでは、令和8年度の基準で何が要件になったのかを確かめたうえで、 実際に移行するとして、どこにどれだけ時間がかかるのかを、総務省のマニュアルと条文で整理します。
結論
法適用は、下水道事業に対する国の財政措置の要件になりました。
- 令和8年度の繰出基準では、高資本費対策に要する経費の繰出しの対象は「令和6年度までに地方公営企業法を適用している事業」に限られます
- 資本費平準化債も、下水道事業・簡易水道事業では法適用企業が対象です。ただし要件になった時期は高資本費対策とそろっていません。 令和6年1月の通知は、資本費平準化債について重点事業は令和7年度から要件にすると予告していました
- 法適用していなくても対象に残るのは、2つの例外だけです。統合・廃止が決定していて将来にわたり継続を見込まず、その旨を公表している事業と、災害対応その他の理由で適用が著しく困難であった事業です
- 高資本費対策は、法適用に加えて前5年度内の経営戦略の策定・改定も求めています。片方だけでは足りません。そのうえで、資本費と使用料の水準による個別の要件を満たした事業だけが繰出しの対象です
そして、移行事務は短くありません。 総務省のマニュアルが示す工程表は、 適用年度の2〜3年前から準備に入る組み立てになっています。 いま着手しても、要件を満たすのは数年先です。
一方で、移行に要する経費は、対象経費であればその全額が公営企業会計適用債の対象になります。 ただし対象経費の範囲には限定があり、職員の給料等は原則として入りません(後述)。 下水道事業は重点事業なので、その元利償還金には普通交付税措置があります。
まず、外れるものを確かめる
令和6年1月22日付けの総務省自治財政局長通知「公営企業会計の適用の更なる推進について」は、 下水道事業と簡易水道事業を「重点事業」と呼び、次のように定義しています。
下水道事業(公共下水道(特定環境保全公共下水道及び特定公共下水道を含む。)、流域下水道、集落排水及び合併浄化槽をいう。以下同じ。)及び簡易水道事業(以下「重点事業」という。)について、令和5年度までに公営企業会計を適用するよう要請してきた
この通知は、続けて地方財政措置等の要件化に触れています。ただし、書きぶりは「予定であること」でした。
下水道事業における高資本費対策及び簡易水道事業における高料金対策に係る地方交付税措置について、重点事業は令和6年度決算に基づく算定(令和8年度分算定)から公営企業会計の適用を要件にする予定であること。
「予定」と書かれたものは、確定した版に当たり直す必要があります。 実際の令和8年度の基準はこうなっています。
| 措置 | 令和8年度の要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 下水道事業の高資本費対策に要する経費の繰出し | ①令和6年度までに地方公営企業法を適用している事業で、②当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定しており、③資本費と使用料の水準等による個別の要件に当たること | 令和8年度の地方公営企業繰出金について 第7の8 |
| 簡易水道事業の高料金対策に要する経費の繰出し | 同じ組み立て(①②は同文、③は資本費158円以上かつ供給単価178円以上等) | 同 第5の2 |
| 資本費平準化債の同意又は許可 | 下水道事業・簡易水道事業は法適用企業を対象とすること | 令和8年度地方債同意等基準運用要綱 第1の1の5(3) |
繰出基準(令和8年4月1日付け総財公第18号)の高資本費対策の項は、原文でこう書かれています。
繰出しの対象となる下水道事業は、令和6年度までに地方公営企業法を適用している事業(地方公営企業法を適用していない事業であって、既に統合・廃止が決定しており、将来にわたり継続を見込まないもので、その旨公表しているもの又は災害対応その他の理由により、地方公営企業法の適用が著しく困難であったものを含む。)であって、当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定しているもの(当該年度前5年度内に経営戦略を改定していない事業であって、災害その他の理由により、経営戦略の改定が著しく困難であったものを含む。)のうち、次の事業とする。
一文が長いので、切れ目を置いて読みます。要件は3段になっています。
- 令和6年度までに法を適用していること(括弧内の2つの例外に当たる場合を含む)
- かつ、当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定していること(こちらにも括弧内の例外がある)
- そのうち、「次の事業」=(ア)〜(ウ)に当たること
見落としやすいのが2と3です。法適用だけでは足りず、経営戦略の策定・改定が5年より前で止まっている事業は、法適用済みでも対象から外れます。 ただし、ここにも括弧書きの例外があり、災害その他の理由で改定が著しく困難であった事業は含まれます。
そして、1と2を満たしても、それだけで繰出しの対象になるわけではありません。 「のうち、次の事業とする。」に続く(ア)は、供用開始30年未満の下水道事業(特定公共下水道及び流域下水道を除く。)のうち、 前々年度の有収水量1㎥当たりの算定対象資本費が43円以上かつ使用料が150円以上の事業、というものです。 (イ)(ウ)は事業統合をした場合の読替えです。 高資本費対策は、もともと資本費が著しく高い事業に絞られた措置であって、法適用と経営戦略はその入口の条件にすぎません。
ここで、算定対象資本費は資本費そのものではないことに注意が要ります。原文は括弧書きで定義を置いています。
(資本費から、雨水処理に要する資本費及び分流式下水道等に要する資本費に処理区域内人口密度の段階等に応じ次の表に定める率を乗じて得た額を控除した額とする。)
雨水処理に要する資本費と、分流式下水道等に要する資本費の一部(処理区域内人口密度に応じた率を乗じた額)を差し引いた後の額です。 控除に使う率は密度が低いほど大きく、25人/ha未満で0.6、100人/ha以上で0.2、特定環境保全公共下水道等は0.6と定められています。 手元の資本費をそのまま43円と比べると、判定を誤ります。
資本費平準化債のほうは、令和8年度地方債同意等基準運用要綱がこう書いています。
下水道事業及び簡易水道事業にあっては、法適用企業を対象とするものであること。ただし、以下のいずれかを満たす事業については、この限りではないこと。 (ア)既に統合・廃止が決定しており、将来にわたり継続を見込まない事業で、その旨を公表している事業 (イ)災害対応その他の理由により、公営企業会計の適用が著しく困難な事業
例外の(ア)は「決定している」だけでは足りず、その旨を公表していることまで求めています。 令和6年1月の通知の段階では「令和7年度からは、統合・廃止する旨を公表していることを要件とする予定である」と書かれていたもので、いまは要件になっています。
そして、要件になった時期は、高資本費対策とそろっていません。 先ほどの通知は高資本費対策を「令和6年度決算に基づく算定(令和8年度分算定)から」としていましたが、 資本費平準化債については別の年度を挙げていました。
資本費平準化債の同意又は許可について、重点事業は令和7年度から、その他の事業は令和11年度から公営企業会計の適用を要件にする予定であること。
下水道事業は重点事業なので、資本費平準化債のほうが1年早い予告でした。 実際、令和8年度の運用要綱では上に引いたとおり要件になっています。 「令和8年度から要件になった」とひとくくりにすると、1年分を取り違えます。
「法適化」は、2つのうちどちらかを選ぶことです
下水道事業は、地方公営企業法が当然に適用される事業ではありません。 同法第2条第1項が挙げるのは水道事業(簡易水道事業を除く。)、工業用水道事業、軌道事業、自動車運送事業、鉄道事業、電気事業、ガス事業の7つで、下水道はここにありません。 下水道は同条第3項を根拠とする任意適用です。
前二項に定める場合のほか、地方公共団体は、政令で定める基準に従い、条例……で定めるところにより、その経営する企業に、この法律の規定の全部又は一部を適用することができる。
「政令で定める基準」が地方公営企業法施行令第1条で、その第2項が下水道事業の根拠になります。
地方公共団体は、地方公営企業及び前項に規定する病院事業以外の事業で主としてその経費を当該事業の経営に伴う収入をもつて充てるものについて、条例で定めるところにより、法の規定の全部又は財務規定等を、条例で定める日から適用することができる。
ここで選べるのは、「法の規定の全部」か「財務規定等」かの2つだけです。 マニュアルも「なお、任意の規定のみを選んで適用することはできません」としています。 必要な規定だけをつまみ食いする、という選び方はできません。
財務規定等だけを適用する場合(実務でいう財務適用)は、管理者が置かれません。 管理者の権限は長が行い、出納その他の会計事務と決算に係るものだけ、条例で会計管理者に行わせることができます(法第34条の2)。
第二条第二項又は第三項の規定により地方公共団体の経営する企業に財務規定等が適用される場合においては、管理者の権限は、当該地方公共団体の長が行う。ただし、管理者の権限のうち当該企業の出納その他の会計事務及び決算に係るものについては、条例で定めるところにより、その全部又は一部を当該地方公共団体の会計管理者に行わせることができる。
会計事務を従来どおり一般会計部門で処理できるかどうかが、ここで分かれます。 財務適用で会計管理者に委任した場合について、マニュアルは「その場合には、従前どおり一般会計部門で行うことができます」としています。 一方、全部適用の場合は、管理者を置くか置かないかにかかわらず会計事務を会計管理者に委任することはできず、 一般会計部門の職員に行わせることもできません。 ただし、マニュアルは「一般会計部門の職員に企業職員を併任させて事務を処理させることは可能です」ともしています。 専任の職員を置けない小規模な団体では、この併任が実際の落としどころになります。
もう1つ、入口で決めることがあります。対象事業をどの単位でまとめるかです。 公共下水道事業と集落排水事業を1つの特別会計にするのか、事業ごとに分けるのか。 総務省の質疑応答集は、一体的に経営する場合は同一の特別会計にできるとしたうえで、 その場合も「予算決算上、区分経理すべきです」としています。 分けた場合は、それぞれが別に消費税の納税義務者になります。 消費税法第60条第1項が、特別会計ごとに「一の法人が行う事業とみなして」同法を適用すると定めているためです。 質疑応答集も、法適用済み事業と切り離して運営する場合の留意点として、予算書・決算書を各会計で作成すること、 それぞれが消費税等の納税義務者になること、そして会計間の資金移動が安易にできなくなることを挙げています。
移行事務にどれだけかかるか
総務省「地方公営企業法の適用に関するマニュアル」(平成31年3月改訂版)の概略スケジュール例は、次の組み立てです。
| 時期 | 主な作業 |
|---|---|
| 適用年度の2〜3年前 | 事務内容とスケジュールの把握、対象事業の検討、全部適用・財務適用の検討、既存資料の状況の把握、資産の登録単位の検討、条例・規則等の洗い出し、システムの把握、委託の検討 |
| 1年前 | 固定資産台帳の整備、条例・規則等の制定・改正、出納取扱金融機関の指定と告示、勘定科目の設定、予定開始貸借対照表の作成、新予算の編成、システム整備、打切決算の準備(補正予算等) |
| 適用年度 | 打切決算(決算書作成、打切決算に係る消費税等の申告)、税務署への届出、総務省への報告、システム運用、計理状況の報告 |
| 適用2年目 | 法適用初年度の決算(決算整理、財務諸表の作成、消費税等の申告) |
「うちは資産が少ないから早く終わる」と考えたくなりますが、マニュアルはそこを打ち消しています。
事務の分量としては、固定資産台帳の整備が大きな割合を占めており、一般的には早期に着手すべき事務とされていますが、その他の事務も時間を要するものがあります。例えば、固定資産の量が少ない事業でも、財務会計システムの整備や出納取扱金融機関との調整、例規整備など、外部の事業者や他部署との調整に一定の時間を要しますので、早期に着手しなければならない場合もあります。
相手のいる作業が、資産量とは無関係に時間を食います。 とくに、団体内に公営企業会計を適用している特別会計が1つもない場合は、財務会計システムを新規に導入することになります。
最も手間がかかるのは固定資産台帳です
マニュアルは、固定資産台帳の整備を「移行事務の中で最も手間のかかる作業」と書いています。 償却資産については、法適用時の帳簿原価を次のように置きます。
ただし、建物、構築物、機械装置、車両運搬具などの償却資産については、資産取得時から減価償却が行われてきたものとして算定した資産の帳簿価額(帳簿原価-減価償却累計相当額)をもって法適用時の帳簿原価(取得価額)とします。
問題になるのは、取得時期や取得価額が分からない資産です。ここは推計することになります。
取得時期、帳簿原価(取得価額)の推定・推計に当たっては、再評価則第6条(取得の時期の不明な資産)・第7条(取得価額の不明な資産)に示されている考え方を参考とすることを基本とします。 しかしながら、それにより難い実情がある場合には、決算統計等から整備年度における投資額を把握した上で当該金額の按分により算定する手法や再設計を行う手法、実績単価に数量を乗じる手法など合理的な手法を活用することにより、合理的な形で当該固定資産の取得に要した額を算定します。
そして、ここは統一的な基準による地方公会計の固定資産台帳と扱いが違います。 すでに地方公会計の台帳を整備している団体は多いはずですが、そのまま持ってくることはできません。
地方公会計の固定資産整備では、取得価額不明資産について再調達原価による評価を認めていますが、公営企業会計においては、投下資本(固定資産の取得価額)を料金により回収する必要があるなど、精緻な原価計算が必要となることから、再調達原価による評価は認められません。これを認めると、いたずらに料金値上げに繋がったり、必要以上に一般会計等からの繰入れを行ったりするおそれもあります。
理由まで書かれているところが大事です。公営企業会計の固定資産の額は、料金の原価になります。 再調達原価で置けば、その分だけ減価償却費が膨らみ、料金か繰入金のどちらかに跳ね返ります。 資産に計上する金額の基準も違います。マニュアルは「地方公会計では、物品は50万円以上の場合に資産として計上しますが、公営企業会計では、備品は原則として10万円以上の場合に資産とする点も相違します」としています。 呼び方が物品と備品で違うので、台帳を突き合わせるときは項目名だけで対応させないほうが安全です。
もっとも、マニュアルは「地方公会計により整備された台帳のうち、公営企業会計へ活用できる項目もある」ともしています。 使えないのは評価額であって、資産の存在や数量を洗い出した作業そのものは無駄になりません。
なお、資産の登録単位については、移行時に限って簡易的な方法が認められています。
実施可能性、固定資産台帳整備に要する経費や期間等を考慮し、過去に取得した固定資産の情報の把握が困難な状況等にある事業においては、固定資産の種別及び取得年度に応じた分類(上記①の分類)のみを行うという簡易的な手法を採用することもやむを得ないものと考えます。
ただし、これは移行時の取扱いです。適用後に取得した固定資産は標準どおりに登録することが求められています。
打切決算には出納整理期間がありません
法適用の前日で、従前の特別会計の会計年度を終わらせます。根拠は地方公営企業法施行令第4条第1項です。
……法の適用の日の前日の属する会計年度は、地方自治法第二百八条第一項の規定にかかわらず、同日をもつて終了し、当該会計年度に属する出納は、その日をもつて閉鎖し、当該会計年度の決算は、従前の例によつて行うものとする。但し、法の適用の日の前日の属する会計年度の歳入が当該会計年度の歳出に不足するときは、これを歳入不足額として決算に計上するものとする。
実務で効くのは次の3つです。
1つ目は、出納整理期間が無くなることです。 通常の年度であれば、出納は翌年度の5月31日に閉鎖されます(地方自治法第235条の5)。この年だけ、その期間がありません。 総務省の質疑応答集も「打切決算により出納整理期間がないことから、収入・支出をできる限り法適用の日までに処理できるようにするとともに、赤字決算にならないようにするため、補助金、企業債、繰入金等の受入れや工事等の執行管理を適切に行う必要があります」としています。
2つ目は、赤字になっても繰上充用ができないことです。 上のただし書のとおり、不足額は決算に計上します。 資金は一時借入金で手当てすることになります。ここでいう一時借入金は、打切決算をする会計がまだ法非適用であることから、 施行令第4条第2項が「地方自治法第二百三十五条の三第一項の規定による一時の借入金」と書いているものです。 償還できない金額を限度に借り換えができますが(同項が法第29条第2項ただし書の「規定の例によつて」と定めています)、 借り換えた分は法適用の日の属する事業年度内に、借入金以外の収入で償還しなければなりません(同条第3項)。
3つ目は、前の年度の未収金・未払金の扱いです。 発生主義の予算には載らず、現金主義の決算にも載らないという隙間ができるため、 法適用の日の属する事業年度の債権・債務として整理し(同条第4項)、予算に別条を設けて「特例的収入及び支出」として処理します。
なお、開始貸借対照表は移行事務の途中で作る「予定開始貸借対照表」がもとになりますが、 確定するのは打切決算の議会認定時です。
適用したあと、期限のある事務が並びます
| 事務 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 長・会計管理者・管理者相互間の事務の引継ぎ | 法適用の日から10日以内 | 施行令第7条 |
| 打切決算を長に提出 | 出納閉鎖後3か月以内 | 地方自治法第233条第1項 |
| 地方公営企業法適用状況異動報告書の提出 | 遅滞なく | 施行令第28条第2項 |
| 税務署への事業廃止届出書・新設法人に該当する旨の届出書 | 速やかに | 消費税法第57条第1項第3号・同条第2項 |
| 打切決算に係る消費税の確定申告・納付 | 課税期間終了後6か月以内 | 消費税法施行令第76条第2項第2号 |
| 法適用初年度以降の消費税の確定申告・納付 | 課税期間終了後3か月以内 | 消費税法施行令第76条第2項第3号 |
異動報告書の様式は、施行規則第51条が「令第二十八条第三項に規定する報告の様式は、別記第二十号様式に準ずるものとする」としています。 提出先には経路があり、マニュアルは「都道府県又は指定都市(都道府県又は指定都市の加入する一部事務組合及び広域連合を含む。)においては総務大臣に、その他の地方公共団体においては都道府県知事を経由して総務大臣に提出します」としています。 未着手として残っている22事業の17団体には、都道府県も指定都市も含まれていません(別添の「指定都市」欄・「都道府県」欄はいずれも0です)。実務上はこちらの経路になります。
消費税の2行は、どの課税期間の話かで期限が違うので分けて書きました。 地方公共団体の特別会計は原則として課税期間終了後6か月以内ですが、 その括弧書きで「地方公営企業法第三十条第一項(決算)の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業」が除かれ、 そちらは3か月以内になります。第30条は財務規定等に含まれるので、財務適用でも3か月です。 マニュアルも「法適用後の消費税の申告・納付期限」として、 「消費税法施行令第76条第2項第3号により課税期間(事業年度)終了後3か月以内とされており、法適用前の期限が同項第2号により終了後6か月以内であったことと比較し、納付期限が早くなることに注意が必要です」としています。
つまり、適用年度に到来するのは打切決算に係る申告(6か月以内)のほうで、3か月の期限が最初に効くのは適用2年目です。 マニュアルの工程表も、打切決算の「消費税等の申告」に「課税期間終了後、6か月以内」、 初年度決算の「消費税等の申告」に「課税期間終了後、3か月以内」と、別々の吹き出しを付けています。 申告期限が3か月になるということは、特定収入に係る仕入控除税額の調整が必要な会計では、その計算も3か月の中で終えなければならないということです。
なお、法適用に伴って現在の特別会計を廃止し、新たな事業会計を設けることになるため、税務署への届出が要ります。 消費税法第57条第2項が求める「新設法人に該当する旨の届出書」は、同法第12条の2第1項の新設法人、 すなわち基準期間がない事業年度について、その開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上の法人に該当した場合の届出です。 マニュアルは、資本金の額が予定開始貸借対照表と開始貸借対照表で変わることがある点に注意を促しています。 また、農業集落排水施設を法適用済みの公共下水道事業に統合するなど、他事業を併せて1つの会計にする場合は、 事業廃止届出書ではなく、消費税法第57条第1項第5号による「合併による法人の消滅届出書」になります。 入口で会計の単位を決めるという話は、ここにもつながっています。
移行に要する経費は起債できます
令和8年度地方債同意等基準運用要綱は、公営企業会計適用債の対象経費をこう定めています。
地方公営企業法の財務規定等の適用に要する経費(基礎調査・基本計画等策定経費、資産評価・資産台帳作成経費、財務会計システム導入経費並びに財務規定等を適用した日の属する年度から当該年度の翌々年度までの間における会計処理及び財務諸表の作成に要する経費等をいう。ただし、財務規定等の適用に係る事務に従事する職員の給料等は原則として含まれない。)
読みどころは2つあります。
1つは、対象が適用の日で切れていないことです。 「財務規定等を適用した日の属する年度から当該年度の翌々年度までの間における会計処理及び財務諸表の作成に要する経費」まで入ります。 適用初年度の決算を外部に頼む費用も、この範囲に収まります。償還年限は原則として10年以内、資金は民間等資金です。
もう1つは、「原則として」の中身です。 職員の給料等は原則として対象外ですが、総務省の質疑応答集に例外が示されています。
「公営企業会計の適用に直接必要」として採用された職員(地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律……に基づき採用された職員、会計年度任用職員及び再任用職員)に対する給与及び費用弁償等のほか、外部専門家の招へいに要する経費(公営企業経営支援人材ネット事業の利用に要する経費を含む。)についても起債対象経費に含むこととしています。 なお、自団体・他団体を問わず、上記の職員を除く職員の給与については、起債対象経費に含めないこととしています。
もとから在籍している職員の分は入らず、この作業のために採用した職員の分は入る、という切り分けです。 なお、この質疑応答集は令和2年4月1日時点のものなので、実際に起債する際は最新の取扱いを確認してください。
交付税措置については、令和6年1月22日付けの通知が「重点事業については、その元利償還金に対し、普通交付税措置を講ずることとし、その他の事業については、その元利償還金の1/2を一般会計からの繰出の対象とした上で、当該繰出に対し、引き続き特別交付税措置を講ずる」としています(令和10年度まで)。 下水道事業は重点事業なので、前者です。
また、法適用に伴って資本費平準化債の発行可能額が減る場合の激変緩和措置があります。 法非適用として計算した額が法適用として計算した額を上回るとき、その差額のうち1年目は0.9、2年目は0.6、3年目は0.3を上乗せする、という仕組みです(適用した日が4月2日以降の場合は翌年度から数えます)。
ただし、これをいまから当てにはできません。 令和6年1月22日付けの通知は、この措置について 「適用後3年間の激変緩和措置を引き続き講ずることとしている(重点事業は令和7年4月1日までに適用する事業、その他の事業は令和11年4月1日までに適用する事業を対象とする。)」としています。 下水道事業は重点事業なので、いまから着手して適用する事業は、この期日を過ぎています。 令和8年度の運用要綱の本文にはこの期日の限定が書かれていませんが、 通知の側では対象が区切られているので、予算に見込む前に総務省・都道府県に取扱いを確かめてください。
残っているのはどこか
最後に、全国の状況を見ておきます。総務省の調査(令和7年4月1日時点)はこうなっています。
| 区分 | 令和7年4月1日 | 令和6年4月1日 |
|---|---|---|
| 適用済 | 3,471(99.1%) | 3,448(98.7%) |
| 適用に取組中 | 5(0.1%) | 26(0.7%) |
| 検討中 | 5(0.1%) | 10(0.3%) |
| 検討未着手 | 22(0.6%) | 10(0.3%) |
| 合計 | 3,503(100%) | 3,494(100%) |
「適用済」と「適用に取組中」の合計は99.2%で、前年度より0.2ポイント下がっています。 取組中だった事業が適用済みに進んだ一方で、検討未着手が10から22に増えたためです。
未着手の22事業を別添の脚注から数えると、17団体・22事業でした。内訳はこうです。
| 事業の種類 | 事業数 |
|---|---|
| 特定地域生活排水処理施設 | 9 |
| 農業集落排水施設 | 7 |
| 個別排水処理施設 | 4 |
| 特定環境保全公共下水道 | 1 |
| 漁業集落排水施設 | 1 |
残っているのは、ほとんどが集落排水や浄化槽の事業です。 22事業のうち公共下水道に当たるのは、特定環境保全公共下水道の1事業だけです。 規模は小さいものが中心ですが、前に見たとおり、小さいことは移行事務が軽いことを意味しません。 条例・規則の整備も、金融機関との調整も、システムの用意も、事業の大小にかかわらず必要です。
すでに適用した団体にも、続きがあります
令和6年1月22日付けの通知は、適用済みの団体に対しても2つのことを書いています。
1つは全部適用の検討です。「経営の機動性・自由度の向上等を図る観点から、既に財務規定のみを適用している事業を含め、地方公営企業法の規定の全部を適用することについて検討することが望ましい」とされています。
もう1つは、この先の制度改正です。同じ通知は、総務省が「地方公営企業法における財務規定等の適用範囲の拡大や、抜本的な改革の更なる推進方策、経営戦略に基づく財政マネジメントの強化方策等、地方公営企業法の改正を含めた今後の公営企業制度のあり方について、検討を行うこととしている」としています。 適用範囲の拡大が検討されているということは、いま任意適用にとどまっている事業の位置づけが、今後変わる可能性があるということです。
固定資産台帳の精度も宿題として残ります。質疑応答集は、先行して法適用した団体について、 台帳が十分な精度を有していない場合は「固定資産台帳等のより一層の充実・精度向上等に取り組み、公営企業の経済性の更なる向上に努めることが期待されます」としています。
まとめ
- 下水道事業の法適化は、国の財政措置の要件になりました。高資本費対策の繰出しは、令和8年度分算定から「令和6年度までに地方公営企業法を適用している事業」に限られます。資本費平準化債も法適用企業が対象で、こちらは通知の予告では1年早い令和7年度からでした。2つを「令和8年度から」とひとくくりにしないこと
- 外れるのは、統合・廃止を決定し、将来にわたり継続を見込まず、その旨を公表している事業と、災害対応その他の理由で適用が著しく困難であった事業の2つだけです
- 高資本費対策は、法適用と経営戦略(前5年度内の策定・改定)の両方を求めています。片方だけでは足りません。経営戦略のほうにも、災害その他の理由で改定が著しく困難であった場合の例外があります
- 法適用と経営戦略を満たしても、それだけでは繰出しの対象になりません。 高資本費対策は「のうち、次の事業とする。」と続き、算定対象資本費(資本費から雨水処理分等を控除した後の額)43円以上かつ使用料150円以上といった個別の要件で絞られます
- 選ぶのは「法の全部」か「財務規定等」かの2つで、任意の規定だけを選ぶことはできません
- マニュアルの工程表は適用年度の2〜3年前から始まります。資産が少ない事業でも、システムや例規、金融機関との調整に時間がかかります
- 固定資産台帳は最も手間がかかる作業です。地方公会計の台帳をそのまま使うことはできません(再調達原価は認められません)
- 打切決算には出納整理期間がなく、繰上充用もできません。適用直後は、引継ぎ10日以内、決算3か月以内といった期限が並びます
- 消費税の申告・納付期限が6か月以内から3か月以内に早まります。財務適用でも同じです。ただし適用年度に到来するのは打切決算に係る申告(6か月以内)で、3か月が効き始めるのは適用2年目です
- 移行に要する経費は公営企業会計適用債の対象で、適用年度の翌々年度までの決算関係の経費も入ります。ただし職員の給料等は原則として対象外で、この作業のために採用した職員の分だけが例外です